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家賃保証事業の検討

事業検討にあたり3つのポイント

ここ数年、ご自身で家賃保証事業を検討しているというお問合せが多くなってきております。
皆様が家賃保証事業を始めるにあたり、そもそも保証会社は収益を生むのだろうか、どこから手をつけたらよいのか、何かしらの免許を取らなければいけないのだろうか、どういった経費がかかるのだろうか、資本金はどのくらい必要なのか、などご質問を多くいただきます。
今までは、保証会社を利用して、特に気にすることもなかったことですが、事業を始める場合、今度は立場が変わり、引き受けることになりますので、安易に事業を開始することは、避けた方が良いです。
実際に最初の頃は、滞納数も少ないため、売上が先行して利益確保ができますが、1年半から2年半が経ちますと、滞納数が積み重なり、さらに退去するときの原状回復、違約金など出口の保証をしている支払いが多くなっていき、損失が増えていくことになります。
時間が経つにつれ、利益が減少していくことになってしまうことがあります。
そのため、事業開始して3年以内に事業をやめる方もいらっしゃいます。
この保証事業は、やめたからと言ってすぐに損失がなくなる訳ではありません。
売上がほとんどなくなった状態で、すでに契約している滞納費用だけが一定期間発生し、損失が継続して残ることになります。
一方、審査を厳しくして、滞納数を無くす、少なくするという考えはございますが、母体である管理会社としての入居率を下げてしまうことにつながり、トータルでやらない方が良かったという結果になりかねません。
また、株式上場をご検討されている方が金融機関から言われたことですが、何故、母体の事業が良いのにも関わらず、リスクのある事業を始めるのか、と問われることもございます。
事業拡大、収益拡大のため保証事業を始めようとしたにも関わらず、マイナスに働いてしまうこともございます。
事業計画の上でのリスク説明が十分でないと保証事業を始めるには、難しいことになります。
ここまでの話ですと、保証事業はハードルが高いのではと考えられる方もいらっしゃると思います。
安易に事業開始をするのではなく、利益と継続性を考え、リスクを許容できるかを見極めてから行っていくことが大切です。
管理会社として、保証事業を始めることは、単に今ある専門の保証会社の売上、経費、かけられる人員、蓄積したノウハウ、システムとは違いますので同じに考えてはいけません。
その特徴、違いを踏まえた上で事業計画を立て、実際の運営をしていくことが必要です。

まず、大事なことは、今のご自社の管理資源を活用し、収益を上げるという考えに立ちます。
管理戸数をお持ちでない方、不動産会社でなく、全く新たに始める方にとっては、保証会社とまともに競合していくことになりますので、会社の知名度・信用度、不動産会社との強いネットワークがある、不動産会社への資本投資をしている、不動産にかかわるサービス提供をしているなど、売上がすぐに立つ以外の方々がこの事業を始めるには、後進組みとして、かなりハードルが高くなります。

その上で、まず何を検討していけばよいのか、大きく3つのポイントから考えていきます。
第1ステップ 【事業採算】 保証事業は成り立つのだろうか?
第2ステップ 【設立時間】 設立までどれくらいの時間がかかるのだろうか?
第3ステップ 【運用体制】 自分たちで運用ができるだろうか?

この3つのポイントをきちんと理解していかなければ、いつから収益を生むのか、いつになったら始められるのか、といった事業評価、準備しておく資本金が曖昧になってしまい、保証会社設立の判断ができません。

【事業採算】

ここでは、自社の特徴(賃貸借契約件数、平均家賃、滞納率、保証会社利用率、人員、地域性など)を踏まえ、売上、経費を算出し、収支計画を作成します。

まず、収支計画を作成していく上で、以下の内容を認識した上で、自社と適合するかをみていきます。

  1. 専門の保証会社との違い(管理会社が家賃保証事業を行うときのビジネスモデル)
  2. 家賃保証事業にかかる費用の洗い出し
  3. 必要なキャッシュ量
  4. 事業リスクの低減方法

収支計画の項目として、以下の内容になります。

  1. 売上ライン
  2. 滞納見込み
  3. 運営コスト

(売上ライン)
売上ラインのポイントは、保証引き受けできるコンスタントな数字をとることです。
現実とかけ離れた件数や売上増加率を過度にしないことです。
あくまで継続性を重視してみていく必要があります。
その後に新規管理獲得見込みや外販の可能性を加算していきます。

(滞納見込み)
皆様に今、どれくらいの滞納がありますか?という質問をします。
今や保証会社利用率が高く、実際の滞納がどれくらいあるか、正確にとらえられないことが多くあります。と申しますのもどの人が回収できているのか、保証会社でないと分からない
からです。
できましたら、
①初期滞納(約定日を超えた方) ②1ヶ月経過後 ③2ヶ月経過後 ③3ヶ月以上経過後が数値化されていますと、より収支計画の正確性が高くなります。
また、収支を作る上で、滞納についてよく誤解される点は、ある時点での滞納を見て、その
金額が変わらず推移すると考えてしまうことです。
滞納見込みのポイントは、毎月増加していく契約数の累積に対し、一定比率を掛け滞納数を算出することです。
これは、お金の貸し借りにおいては、1人に10万円を貸すとそれを計上すれば、翌月以降、費用発生はないといった確定債権としてみますが、滞納の場合、1人が翌月以降も同じ家賃を支払い、滞納することがある、確定できない債権とみるためです。
すでに管理戸数全てに自社保証が利用されていましたら、それほどの誤差はでないかもしれません。
また、実際には、この考えの数値で推移することもあります。
これから開始するにあたっての事業計画につきましては、少しネガティブに考え、損益分岐点などを把握することが重要と考えます。

(運営コスト)
保証会社を設立するにあたって、滞納費用の他にどういった費用がかかるのか、不明な方がほとんどです。
売上については、保証料として計算しやすいのですが、コストについては、滞納に関する費用、一般経費としてかかる費用を分けて考えます。
詳細につきましては、「家賃保証事業にかかる費用」編で説明させていただきます。
運営コストのポイントは、滞納においてかかる費用の発生率及びその単価と保証事業に関わる人件費になります。
現社員で兼務として行うのか、新規採用にするかになります。
運営に当たっての人員計画がコストでは、大きく左右する要因になります。

事業として採算がとれるのか、事業計画を作成すると同時に必要なキャッシュについても考えておく必要があります。
これは、大きく保証商品によって左右されます。
詳細は、「必要なキャッシュ量」編で説明させていただきますが、利益が出ているのにキャッシュが減って黒字倒産ということにならないよう、ご自社の体制を踏まえた商品にしていくことが重要です。

【設立時間】

会社設立にあたって、自分たちが何をすればよいのか、スタートまでどれくらいの時間を要するのかのご質問を多くいただきます。
まず、保証会社設立にあたり、法人登記の手続きは、ご自社で行っていただくことになります。

事業開始にあたって、

  1. 必要人員の確保
  2. 再保証会社との提携交渉
  3. 運用ツールの作成時間

について、どの様にしていくのかにより、時間が大きく左右されます。

(必要人員の確保)
すべての業務を自社で行う場合、人員の確保が必要となりますので、社内の人材で行うのか、
新たに採用するのか、アウトソースしていくのかにより時間が違ってきます。

(再保証会社との提携交渉)
自社保証会社を設立した場合、保証会社立ち位置を考えていきます。
すべての業務を自社で行うのか、どこかの信販会社や保証会社と提携していくのかによります。
どこかの会社と提携するにあたり、再保証型の提携をするのか、共済型の提携にするのか、
を検討していきます。
また、保証会社と再保証型の提携をする場合、自社保証会社側は滞納リスクを回避できるメリットが大きいですが、引き受ける保証会社は、実質値引きになりますので、引き受け先を探すのに時間を多く要します。提携する条件が合えばよいのですが、ほとんどの場合、提携することは難しいと考えた方がよいです。
件数を多く出すことができれば、提携することは可能かもしれませんが、ハードルは高くなります。
自社保証設立にあたり、滞納リスクのコントロールは、重要なポイントになりますので、
今の滞納実績を見たうえで、自社で行うのか、提携を考えるのか、提携をするとしたら、どこと、どのような方法で行うのか、十分に検討していきます。

(運用ツールの作成時間)
保証会社として使う帳票類の作成にかかる時間になります。
普段、使っている保証会社の書類は、見慣れていることも多いですが、いざ全て作成することになった場合は、相当な時間と手間がかかります。
もちろんノウハウが必要になりますが、数カ月から1年かかることもあります。
特に保証約款を作成することになれば、弁護士チェックなど含め、時間と費用がかかってきます。

今や保証会社を利用したことがないという方々は、あまりいらっしゃらなくなりましたが、
保証会社の利用キャリアにより、メリット、デメリットを認識する時間、業務プロセスを把握する時間、保証利用に関わっている人が多いどうか、社内決済までの時間がどれくらいかかるのかといったことが設立までの時間に違いが出ます。

このような自社保証会社の立ち位置、保証利用キャリア、利用ツールにつきまして、
ご提案し、テンプレートを上手く活用していくことによって、大幅な時間短縮ができます。

【運用体制】

実際に保証業務を行うことにおいて、自社で運用していけるだろうか?という不安があります。

  1. 立場の違いによる不安(保証利用から引き受けに変わる)
  2. 入居率と承認率の葛藤(管理会社の立場と保証会社の立場)
  3. 審査に不安(審査基準がない)
  4. 滞納督促に不安
  5. 家賃保証事業の管理方法に不安
  6. 弁護士、残置物撤去業者との取引がない

このような不安をどういった方法で解消していくのかを検討した上で、実際の運用体制を
考えていきます。

運用体制として、人員と業務で大きく分けますと、
部門については、営業部門、事務部門、督促部門になります。
営業部門の人員につきましては、自社の管理物件に利用するため、積極的に外販をしていかない限り必要ありません。

事務部門の人員につきましては、引き受け件数と営業日により左右されます。
専門の保証会社のように毎日、引き受けし、半日から当日に審査結果を出すことになれば、休日シフトを考えなければならないため、シフトの人員が必要になってきますが、多くの場合、ここまで必要はないと考えます。
事務部門の人員が増えていく要因は、商品を複雑化する(商品内容を変え、複数の商品を作る)こと、特に締日と支払日を複数設定することで事務負担が大きくなっていき、支払う保証賃料の間違いをなくすため、時間を多く費やします。
自社保証の場合、商品と業務をシンプルにし、イレギュラーを少なくすることにつきます。

督促部門の人員につきましては、滞納件数、エリアによる効率、督促ノウハウに左右されます。
架電、書面、ショートメールなどの初期督促で約定取付、回収ができる割合が高いですが、
それでも連絡が取れず、訪問に至るときの割合が高くなれば、滞納件数に比べ人員が増えていく結果になります。

次に主にどういった業務があるのかを見ますと、
①申込み~審査業務 ②契約業務 ③売上・請求業務 ④滞納督促業務 ⑤変更・解約業務
この中で、①と④の業務がどれだけ、自社でできるだろうか、という不安がほとんどであり、
保証事業を成功させるための重要なポイントになります。
審査と滞納督促は、相反する傾向にあります。
審査を厳しくすれば、滞納数が少なくなり、審査を緩和すれば、滞納数が多くなる傾向になります。
申込み~審査業務につきましては、審査の前にどういう人を自社で引き受けするかを決めます。(引き受け基準といっております)
その上で、どういう審査をするか、指標となる審査基準を作ります。
弊社では、想定審査といいますが、この人は、将来的に滞納しないだろう、滞納する可能性があるといった審査になります。
固い人といっても各社でその基準は違います。
この時に考えることは、おおよそ、何割くらいを引き受けるのかの想定をします。
全申込み者に対し、30%くらいとみるのか、80%くらいとみるのか、全て自社で引き受けるのかによって大きく変わってきます。
おおよそ、引き受け判断が付く人割合は、引き受けできる人が約50%くらいで、約10%~20%は引き受けできない人、残り約30%くらいは、「?:分からない、判断がつかない」といったことが今まで、自社保証をしている人の声です。
本音は、専門の保証会社がどういう審査をしているのか、提出書類の中で何を見ているのか、
どういった外部データベースを利用しているのか、を知りたいことになります。
専門の保証会社との大きな違いは、過去のデータの蓄積がないこと、保証会社が共有しているデータベースを見れないこと、資金余力の違いです。
数%の人が、このデータベースに引っかかるとしまして、大した数字ではないと思われる人も多いですが、毎月の申込者の内、数%が引っかかることは、毎月の未収(貸倒れの可能性が高い)が積み上がっていきますので、事業収支でも大きく違ってきます。

また、資金余力につきましては、将来のリスクを見込んで、余程の資本金を入れないと、引き受け率は、安心して高くできないでしょう。
事業開始から期間が経過し、滞納、回収率が見えてきましたら、審査の受け入れ基準を変えていくことは可能になりますが、資金余力が少ないスタート段階では、引き受け、審査基準を十分に考えておく必要があります。

滞納業務につきましては、初期督促で回収できる人が60%~70%以上と想定されますが、
特に毎月、連続して滞納する人で連絡が一切つかない人に対して、いつまで許容するかがポイントになります。
ここについては、相手の状況、スタンスにより大きく左右されますので、回収のベテランとそうでない人との回収結果の差は、それほど大きく出ないように思えます。
いかにそうならないようにその前段階で緻密に連絡をとることが重要になりますが、その分、業務負担は大きくなります。
専門の保証会社と違い、人は割けませんし、ノウハウも違いますので、最初に督促工程をつくり、こうなったら、こういうアクションをとるという決めをし、管理者がそれを行っているかをモニタリングをし、見切ることにより、できるだけ仕組み化していく方が良いと考えます。
督促業務は、きれいごとで済まないと思われる方は多いと思いますが、仕組み化するためにどういったことを自社で行い、それ以外をアウトソースするといった考えをもつことが、現場の業務負担を無くし、債務拡大防止につながり、事業継続性が高くなっていくことになります。

①申込み~審査 ④滞納督促業務については、単に保証事業だけを考えるますと、相反する傾向にあり、利益を生み出し、事業継続性を高めるという観点では、審査を厳しくすること
が自社保証では、採用されますが、管理会社から見れば、入居率に影響するので利用しないという結果になってしまうことにつながります。
「入居率 × 審査 × 回収」について、自社の考えとそれをバランスよく運用していく
ことを設立時期から運用時期に備えて、話し合っていく必要があります。